Home > Interview > "Printer in Wonderland" 第三回


京セラ・コンタックスサロン銀座にて、「プリンタ−池添数美モノクロ−ムの世界」と題された個展が開かれた。
この写真展はモノクロ−ムプリンタ−である池添数美氏が、写真家22人の作品をプリントし展示するという類い稀ともいえる個展であり、同業者というだけでなくプリンタ−ズ展の実行委員の一人としても心が早る企画だった。
写真展が始まった頃に一度見せてもらってはいたが、その日は休日の午後ということもあって多くの人に囲まれてお忙しそうなご様子。お話を伺うこともなく失礼した。しかしその後で池添氏に対する興味がムクムクと湧いてきて、「やっぱり話をしたい」と思いも高まり、最終日の2月19日、会場に押しかけお話を伺った。

 

(c)Takeshi Nonoshita


京セラ・コンタックスサロン銀座にて開催された、「プリンタ−池添数美モノクロ−ムの世界」写真展の会場風景


野々下(以下野):「今回の写真展の為に焼き直したりはしているのですか?」
池添(以下池):「焼き直したりということではなくて、全部今回の為に預かったものです。そのうち半分は今回の為に撮影されたもので、要するに私の為に撮りますということで撮ってくださったものが半分。で、あともう半分が今までに撮ったものからです。1点森田さんに関しては、私の『暗室 龍』の歴史として過去の作品を出展してもらいたく、森田さんに相談の上決めました。」
野:「今回全て違う方が撮られてて、もちろんネガのサイズも違いますよね。それでいて統一されたト−ンがあるのは素晴らしいなと思ったんですが。」
池:「やっぱり自分の調子なんでしょうね。自分でも見て最初どうなのかなと思ったのですが。1人の作家だと全体を見ながら全体の調子を揃えるという作業をするんだけど、今回に関しては本当に1点ずつ仕上げていっただけなんです。それで並べて、そしたら揃ってたと。照明を消すと本当に揃うんですよ。これ照明の色だけなんですよ。見てみます?」
野:「はい。見てみたいですね。」

ここで展示用の照明を消して、地明りの蛍光灯だけになった

池:「ほとんど色のバラツキとかは無く見れると思うんですよ。どうしても(部屋に)入ってきた時に暗く感じてしまうんで、これでも(照明を)大分減らしたんですよ。遠めに当てるようにして。」
野:「ぐっと落ち着いた感じになりますね。」
池:「これなんかはすごく立体感が出てきてると思うんですよね、さっきより。だから(照明を)当てて良くなるものとそうでないものがあるみたいですね。照明自体にバラツキがあるからこれはしょうがないみたいですね。」
野:「これも展示の方法としてはいいですね。」
池:「やっぱりモノクロに関しては難しいってどこでも言ってますよね。色が違うだけで、感じが変り、赤がかかるともう立体感が無くなってしまう。色温度が下がると赤がかかって、紅に漬けたような赤になってしまう、そうすると『ベターッ』とした感じになって。カラ−だとそこまで気にしないで済むみたいなんですけど、モノクロだとすごい微妙みたいですけどね。」
野:「このあたりの作品は、4X5と35mmが隣り合って並んでますよね、光学的な差はあるんですけど、ト−ンの差が感じられないですよね。本当に素晴らしいなと思ってるんですけど。」
池:「(笑)。やっぱりしっかり撮られてるからだと思うんですよね。」


(c)Takeshi Nonoshita
右の人物が池添数美さんです



野:「フィルムの現像に関しては、やられていないものもあるんですか?」
池:「3点です。(撮影者が)ご自分でされたものと長い間外国旅行されていてあちらでされたもの、あとプリントの段階でうちを紹介されてきたものがありますね。ご自分で(現像を)されているものには全く抵抗は無いですね。自分でやるのがベストだと思っていますから(笑)。」
野: 「(D−)76は原液で使われているんですか?」
池:「はい。で、写真展に関しては、最初から写真展をやりますよという相談があった分に関しては、自分の調合でやっています。フィルムはこれにしてください、感度はこれで撮ってください、って感じで。一応、イメ−ジを聞いた上で『全部段取り』じゃないけど(ある程度は)して、最初から関わっているってものに関してはこれ(自家調合)を使ってます。だから調子がちょっと違うと思うんですよ。他のものよりちょっとト−ンがあるんですよね。」
野:「そうですね。35mmでこのト−ンはすごいですよね。」
池:「基本的にはこれがうちのト−ンなんです(花嫁と花婿の写真を指して)。黒を完全な黒にはしない、ハイライトもとんでないんですね、やっぱり出してるんです。要するに黒からハイライトまであると、この位の中で全部出すという、こういうプリントをしています。」
野:「この0.9号とか1.75号というのはどういう風になっているのですか?」
池:「引き伸し機に関しては集散光式が一番いいと思うんですね。でも、(フィルタ−操作が)手許で出来るやつは散光式なんですよね、だからフィルタ−タイプで(ブレに)気を付けて入れるのがいいかなと。仮に1.75号だとすれば、2号と1.5号を5秒ずつみたいな足して単純に2で割った号数です。」
野:「2枚のフィルタ−のバランスで号数を決めていると。」
池:「そうです。時間で決めています。あと焼き込みなんかの時に極端にフィルタ−を変えられるということで、多階調がいいかなと。だから昔の作品なんかでも、今、多階調で焼いたらもっと完成度が高くなるかなと思いますね。」
野:「覆い焼きや焼き込みは結構なさるほうですか?」
池:「普通仕事ではあまりしませんね。全体の調子を整えるって感じで、あまり(手を)入れてはいないんですけど。今回に関しては1点ずつ集中して出来たので、見ながら気に入らなければいくらでも手を入れて完成度を高めたという感じですね。やっぱりRCと違って、バライタは手を入れたら入れただけ応えてくれますから、そういう意味ではすごく楽しかったですね。」


(c)Takeshi Nonoshita
左の写真が文中の門扉の写真です


野:「全体的に自然さが損なわれていないと思うんですけど、その点は特にやり過ぎないようにとか注意されましたか?」
池:「いや、やり過ぎないってのはないですね。入れられる所はいくらでも入れますね、基本的には。バランスを崩すというのは、やり過ぎじゃなくてそれはおかしいって事ですよね。やり過ぎとは別の世界ですよね、それは間違いって事だから。これなんか(手を入れてるけど)わかんないよね(門扉の写真を指して)。」
野:「うーん。(自然なのでよくわからない)。」
池:「普通はこのバランスなんですよ、ネガでいうと(ベタ焼きから入力して、プリントアウトしたのを見せてもらう)。でもこのバランスで焼いて額に入れても、いくらなんでも写真にならないですよね。バランスを整えていけば自然な感じになる。」
野:「はいはい。」
池:「これは普通の感覚でいったら入れ過ぎっていう意味合いになるのかなあっていう気がしないでもない部分ですけどね、今、言われた感じからすると。でも、入れてきてバランスが整うんだったらいくら露光かけたっていいだろうなと思いますね。だから結構いろんな所に(手が)入ってますよ。で、作り出した写真って感じですね。質問の中で多いのが『この写真すごく手を入れてますよね?』って、でもその写真が一番手を入れてない。で、こうやって手を入れたものには質問はない(笑)。」
野:「そこはちょっと冥利に尽きるところがあるんじゃないですか?」
池:「うん。やったあって感じよね。」


池:「(昨年プリンタ−の仕事を)辞めた後なんですよ、この写真展の話をもらったのが。でも辞めた人が今さら写真展やってどうすんのってことですよね、私にとって。で、自分の中で後悔してたっていうのが、『若い人に見てもらいたい、でもその為の努力をしていなかった』。それと自分のオリジナル自体を見せてるっていうのがほとんどなかったのですごく後悔してたっていうところに、この話が来たので、それで(別の階で)卒業展と一緒だし、若い人にも見てもらえるかなと思って、受けた形なんですね。」
野:「そうですか」
池:「もう仕事を辞めてたんで、焼くのに他の仕事の時間を気にせずにこれだけを焼いてこ れたっていうのがよかったですね。本当に楽しかった。モノクロって素晴らしいなと実感し ましたね。」
野:「これは人から聞いた話しなんですが、ネオパン(SS)が作られなくなったというのが辞められることに影響したということですが?」
池:「うん。ブロ−ニ−ね。やっぱりショックでしたよ。」
野:「ネオパン(SS)の魅力っていうのはどういうところにあったんですか?」
池:「やっぱり撮影者の意図に応えてくれるフィルム。現像を速くしてもちゃんと(特性曲線上で)直線で残ってくれる。他のフィルムだとハイライトもヘタっちゃうしね、露光オ−バ−になれば。そういう意味で撮影者に応えてくれたフィルムだなと思いますね。自分が20世紀のベストフィルムは何かと問われたら、35mmのトライX、そしてプラスX。で、ブロ−ニ−のSS。この3つですよね。中判といったら”SS”これが一番と言えるんじゃないですかね。調子とか使い易さとか。お客さんでもブロ−ニ−の”SS”を使ってた人が多いんですよね。(新しいのだと)手を入れられないんですよね、プリントの段階で。要するに撮影者がフィルムに合わせなければいけない。フィルムが合わせてくれるんじゃなくて、撮影者がそのフィルムの中にどうやってハイライトからシャドウまで収める露光をするか、それで撮ってきたらそのフィルムを私が忠実に焼かないと崩れちゃう。だから手も入れられない。フィルムだけに振り回されちゃうような感じを受けるんですよね。だからそういう部分で”SS”が無くなったのはもったいないなあと思いますね。」
野:「現像液とのベストマッチングっていうのは?」
池:「(D−)76で、自分が現像してる時間でいいのかなと思ってますけどね。」



野:「4月にやる(徳光ゆかりさんの)写真展も池添さんがプリントされたものが展示されるのですか?」
池:「ええ。99年にプリントしたものなので、今回の為にプリントした訳じゃないんですけど。あの時のプリントをまた見たいなあと思ってたら、やれることになって。35mmから全倍というのは粒子が出る世界なんでね、粒子の綺麗さっていうのを見てもらいたいですね。こういうトロッとしたプリントとはまた違った綺麗さがあると思うんですよね。前に飾った時に、粒子ってこんな綺麗だったっけって改めて認識したプリントだったんですよ。」
野:「私も粒子というのは気にはなっているんですけど、綺麗な粒子っていうのはあまり見た憶えが無いんですよね。」
池:「最近のフィルムではなかなかね。今のフィルムでは細かくなって、昔みたいに出てこない傾向があるんですよね。そういう意味でも粒子を意識するっていうのはなかなか難しいかな。でも、全倍位になるといくら35mmからでも出てくるからね。」
野:「それは楽しみですね。」
池:「ハイライトの辺の粒子の並びっていうの、グレイの辺まで。揃った粒子というのは綺麗ですよね。」

 『洗練』という言葉がある。高級な車や住宅、洋服などについてまわる宣伝文句、言葉だ。私はこの言葉にあまりいいイメ−ジを抱いていなかった。大袈裟で自惚れ気味に使われるのがとても嫌だったし、真の意味を掴めないでいたのだと思う。ところが、今回池添さんの写真展を見て、思いを巡らしているうちに辿り着いたのはこの『洗練』という言葉だった。池添さんのプリントは、気を衒ったり、派手さをアピ−ルするものではない。むしろ地味で、堅実さを積み重ねたプリントだ。ご自分が良いと思うプリント世界をおそらく何万、何十万枚と焼いてきたのだろう。
『表現をする』という行為に対する高い意識と揺るぎのない技術。その辿り着いた結果が『洗練』という到達点なのだと思う。狙ったり、目指したりするものでなく、あくまでも結果がそれを証明する。やっと『洗練』というものに巡り合えた気がする。そして真の『洗練』というものは清々しさを伴うというのを実感した、本当に貴重な体験だった。
池添さんご本人は丁寧で親切、穏やかに受け答えしてくださるジェントルな方で、それでいて、着メロがYMOのライディ−ン(うーん)。
そんなところまで唸らせられて、人柄にまでも興味は尽きない出会いとなった。
会期中のお忙しい時にも拘らず、お付き合いくださり、どうもありがとうございました。

 今回の写真展、池添氏のプロフィ−ル等詳しくはホ−ムペ−ジをご覧ください。
 
 プリンタ−池添数美モノクロ−ムの世界〜PART2〜   4月11日〜23日
 京セラコンタックスサロン銀座5F(03-3571-9321)  10:30〜18:30(水休)


                               (文責 野々下)