Home > Interview > "Printer in Wonderland" 第二回


年も明けて慌ただしくなり始めた木曜日の夕方、西麻布にある山本 昌さんの仕事場を訪ねました。

(c)Takeshi Nonoshita
山本さんの仕事場は清潔でとてもすっきりとしていた。 後ろのカーテンを開けるとまた印象が違うのでしょうね。 扉を開けるとそこには赤いソファがあってそれが何となく可愛しい。


野々下(以下野):「山本さん、下の名前って”まさし”なんですか?」
山本 (以下山):「そうです。」
野 :「ずーっと”マサ・ヤマモト”だと思ってました。」
山 :「それじゃピッチャーだよ(笑)。」
野 :「(笑)この”ラ フォトパラディ”ってどういう意味があるんですか?」
山 :「”パラディ”はパラダイスのことなんで。」
野 :「”はらいそ”ですね。これはイタリア語?」
山 :「いやフランス語。まあ造語みたいなものなんだけど。」
野 :「(マークを見て)これは”P”なのか。なんかアラビア文字みたいだなあ(笑)。さかさまから見てたからか、ああなるほどね。フォトパラディ作ってからどれくらいになりますか?」
山 :「会社自体はねえ、作ってから7年?8年?8年かな。」
野 :「ここに来て?」
山 :「ここに来てはまだ1年半一昨年の7月だから。」
野 :「今まで暗室を使ってきてここは何代目というか何室目になるんですか?」
山 :「そんなに多くないよ。」
野 :「最初は”(ラボ)写 楽”ですか?」
山 :「赤坂のね。あそこに置かさせてもらってて。それであそこの場所をそのまま使う事になったから。」
野 :「それは1年半前まで?」
山 :「そうそう。」
野 :「それではここは自分で思うように作った暗室という事ですよね。」
山 :「多少ね。」
野 :「制限はあるにしてもレイアウトは自分で決めたって事ですよね。どうですか使い易いですか?」
山 :「まあ、前の所は外の光が全然入んなかったですよ。ここはまあいつも外の光が入ってるんで、それがひとつ希望だったんですね。」
野 :「それは大事ですよね。」
山 :「あと本当はね、暗室もね乾いた部屋と湿っぽい部屋と分けたかったんだけど、ちょっとそれほどスペースは取れなかった。こっち(光の入る)を潰しちゃえば出来たんだけど、そうするとね、今度は光が無くなっちゃうんで。」



野 : 「いつもは大体、何時くらいまで仕事をしているんですか?」
山 :「うーん。本当は早く帰りたいんだけどねえ。決まりは無いんですよねえ。」
野 :「車ですもんねえ。」
山 :「だから昨日はちょっと遅くて、昨日来た仕事を昨日中に上げたんでそれで遅くなって。それがなきゃ昨日も8時くらいには終わってたんだけど。
野 :「来る時間って大体いつも決まってるんですか?」
山 :「(小さい声で)決まってない。」
野 :「何時くらいに来るんですか?」
山 :「今日なんかは遅いですよ。1時。本当は11時頃に仕事を貰いに行く予定だったんだけど、先方からちょっと用があるから2時頃ってことで、じゃあ早く行ってもしょうがないかって。まあ大体そう、11時前には普段は来てるけど。ただ暗室に入っちゃうと外に出るのが面倒臭いから、いろんな細々した自分の買い物とか午前中にするんで。」
野 :「それはプライベートなものもあるし?」
山 :「そう。」
野 :「仕事のものは業者さんに持って来てもらうようにしてるんですか?」
山 :「そうだね。大概、配達って午前が多いからいつも表に置いてある(笑)。」
野 :「(笑)。」
山 :「終わりの時間もねえ、昨日も夜遅かったし。やっぱり車が必要になってくるね。」
野 :「結構打ち合わせとかに出る事も多いんですか?届けも?」
山 :「うん。だから逆に車があるからそういう事しちゃうし。」
野 :「出たいしね(笑)。だから僕も『いいですよー行きますよー』なんて。待ってるのも大変だし。」
山 :「だからカメラマンの人がスタジオに入っちゃっても、取りに行ったりとか。」
野 :「まあ車があるといいですよね、ぱっと出られるし。フットワークは軽く。」
山 :「そう(笑い)。大体行き帰りに取って来たり、届けたりできるんで。大体そのような所にカメラマンの人もいるし。」


 

野 :「ちょっと前に写真展に行ったんですけど、そこで文字通 り”斜に見て”分析というか印画紙見たりしてたら、好意的に熱心に見てると勘違いされちゃって。ギャラリーの人ともコミュニケーションが噛み合わなくなって。困ったなと。それでも帰り際に名前を書いてきたら、なんかとんちんかんな字でDMが来るようになっちゃって。僕の字が悪いのかもしれないけど、どう読んだらこうなるの?って感じで。やっぱり、ダメだこりゃって。笑っちゃいましたけど。」
山 :「僕は気に入らなかったギャラリーで、嘘っぱちの住所書いてきた事がある(笑)。」
野 :「嘘っぱち!そういう時って山本さんは冷静にやってるんですか?それとも頭来ちゃってるんですか?」
山 :「いや別に。ああ、こことは別につながりはなくてもいいやあ、と(笑)。」
野 :「そこでね。嘘っぱちを書くのって、こうワンクッションあるというか冷静でなきゃ出来ないじゃないですか。」
山 :「どうなんだろうね。」
野 :「でも基本的には名前は書くというつもりはあったんですよね。」
山 :「あの時は名前書いてくれって言われたんじゃないかな。結構、僕嘘っぱち書く事多いから(笑)。」
野 :「(笑)。」
山 :「ずっと前に住んでたとこの住所を書いてね。」
野 :「でも咄嗟に嘘っぱちって出ないじゃないじゃないですか。」
山 :「だから昔の住所なら出てくるんで、やっぱり考えるのってちょっと難しいもんね(笑)。」
野 :「何かが違ってきちゃいますしね(笑)。」


     
野 :「山本さんはやっぱりフランス語を使っているくらいだから、フランスが 一番好きな国なんですか?」
山 :「そうだね。これを語り出すと長いんだけれども。」
野 :「聞きたいですね。是非。」
山 :「僕、趣味がサイクリングなんですよ。ずーっと10代の頃からやってて。結構フランスが盛んで。で、フランスというのに憧れを持ってて。当然大学で第二外国語でフランス語取ってて、みたいな。」
野 :「僕は勝手に山本さんのイメージはイタリアだと思ってました。じゃあ 南仏かなあ。上の方と下の方ではどちらがお好きなんですか?」
山 :「僕はねえ フランスはパリしか知らないし、日本国内の旅行でも都市に行くのが、都市が好きなの。自然とかそういう所に行くんじゃなくて街が好きでねえ。」
野 :「その都市でどんな事をするんですか?例えば写 真を見たり、絵を見たりとか」
山 :「そんな努力はしない(笑)。努力は次に何食べようかって(笑)。」
野 :「じゃあ行ってブラブラ。」
山 :「別に何もしない訳じゃないけど、街のその”手垢”みたいなもの、そういう感じが好きでねえ。街っていうのは、経済活動とか田舎にはない、そういう歴史みたいなものがあるでしょ、そういう空気みたいなものも好きでね。」
野 :「都市というと見なきゃいけないような場所が沢山あって強迫観念みたいなものがあるので、取り立てて何もないような郊外なんかが僕は好きですね。パリではどんな所を見てるんですか?」
山 :「なんかさ、街でも猥雑な感じとか。そういうきれいなものではない所の方が人間臭い。」
野 :「自転車でまわったんですか、パリは(笑)?歩きとか地下鉄とか?」
山 :「(笑)そうね パリに行くとすごい距離歩きますよ。」
野 :「凱旋門からサンジェルマンデプレまで毎日歩くって感じですよね、パリって。お気に入りの場所はあるんですか?」
山 :「やっぱりサンジェルマンデプレ辺りはいい空気してるしね。」
野 :「カフェで。」
山 :「カフェはあんまり行かないけど。」
野 :「あ、そうか。山本さんはコーヒー飲まないですもんね。」
山 :「行くとしても裏のカフェで夜にちょっと一杯ひっかけてとか、その程度。」
野 :「そういう時は何を飲むんですか?」
山 :「いつも冬が多いんですよ。その時は”Vin Chaud(ヴァンショー)”といって温めたワイン。」
野 :「赤?」
山 :「そう。」
野 :「ホットワイン?いわゆる熱燗みたいに温めただけなんですか?」
山 :「そうそう。ただワインを温めて、レモンか何かをちょこっと入れたりして。」
野 :「どんな感じになるのかな。」
山 :「おいしいよ。むこうの冬は本当に寒いからね。」
野 :「食べ物がおいしいですよね。何かお気に入りの食べ物はあるんですか?」
山 :「昔から憧れてた食べ物っていうのがあってね。最近日本でもあるんだけど”Gratine(グラチネ)”っていうの。平たく言えばオニオングラタンスープ。オニオンスープにパンのっけて、チーズのっけて、オーブンで焦がして。あれがまだ10代の頃のまだ憧れてた頃の食べ物でさ。」
野 :「冬だとおいしそうですね。でもあまり高くなさそうですど(笑)。」
山 :「うん。ちゃんとしたレストランで出るものではない。映画を観た後とか劇を観た後とかに、それとちょっとワイン飲んで帰ろうかみたいな。」
野 :「オペラとかコンサートとか行ったりするんですか?」
山 :「いやいや。パリに何しに行ってるんだろう(笑)。何もしてないなあ。ただ飯食ってブラブラして。」



野 :「自転車はやっぱりフランス製?」
山 :「細かくいうと一応オーダーなんで。部品類はフランス製が多いかな。」
野 :「ロードレースみたいなタイヤの細いやつ?」
山 :「うん。いろいろ。」
野 :「何台くらい持ってるんですか?」
山 :「うんとね、4台か5台かな。」
野 :「普段乗ってるんですか?」
山 :「いや、この仕事を始めてあまり乗らなくなっちゃった。休みもねえ、はっきりしない感じだし。昨年からまた自転車引っぱり出してきてね。でももう基礎体力がね(笑)。昔は200キロとか行けたのに、そのうち100キロ、60キロ、60キロも無理になってきちゃって(笑)。」
野 :「心臓が弱りますよね、運動しないと。若い時は結構色々と行ったんですか?」
山 :「分解して電車に乗ってその場所に行って乗るって感じで、結構あちこち。」
野 :「どんな所に行ったんですか?」
山 :「大体、峠越えが多いんで。平坦な所走ってるだけじゃつまらないでしょ。」
野 :「峠!峠は面白いですか?」
山 :「登るのは大変だけど下るのは面白い。あんまり長い旅ってのはしてないよね。」
野 :「移動の手段というよりも走りたい所を走る為の自転車。」
山 :「せいぜい4、5日。だからキャンピング車みたいのでずーっと移動して行くってのは僕はあまり好きじゃなかった。あれだと自転車がどうしても移動手段になっていっちゃうんで。」
野 :「走り屋なんですね。」
山 :「(笑)僕にとって自転車に乗るっていうのはさ、普段とは違う生活を楽しみたいんだよね。」
野 :「実用性よりも趣味性が強いんですよね。」
山 :「だからそういう自転車で通勤はしたくないし。」
野 :「言わば贅沢な乗り方をしたいって感じですか。」
山 :「(笑)。」



私は見た目から、「山本さんはイタリアンのシェフみたい」だから「イタリア好き」と思い込んでいました。すみません。いつもの穏やかな表情からは知る事の出来ない クセとこだわりが潜んでいました。咄嗟にとぼけて嘘っぱちを書いてくるあたり、一 筋縄ではいきません。東京京橋の生まれで高度成長期の町の変わり様を見てこられたとの事。興味深いお話がもっと伺えたのに時間切れでお暇しました。 また今度、昭和30年代、40年代の話を聞かせて下さい。 どうもありがとうございました。

2002年1月17日 ラ フォトパラディにて
                             (文責 野々下)